文学青年の詫び状 | 青パパの無限増殖ver.187

文学青年の詫び状

「春の雪」が公開されたのを追い掛けるかのようにSちゃんからメール。「豊饒の海」四部作、「春の雪」と「暁の寺」の感想を求められる。
輪廻転生の物語であること、美しく格調高い文体について説明をする。第四部の「天人五衰」はテンションも文体の精度も落ちる、なんて不遜な物言いをしてしまう。それは四部通して語りベの役を演じる本多が老い、死に近づいていくと同時に物語が終焉へ向かって行く。構造上、必然的に避けられない訳ですから。「天人五衰」を書き上げて自決した「事実」と結び付けるのは安易に過ぎ。
「豊饒の海」は読み返すたびに不思議な感覚。主人公は生まれ変わり、若くなるのに本多だけは淡々と歳を重ねていく。記憶を胸の奥底に抱えつつ。
唯一読み直しをしていない「暁の寺」を図書館で借りて来たのは、懺悔の意を込めて。ワット・アルンには昨年やっと足を踏み入れており。「すべての芸術は夕焼」と言う啓示は得られませんでしたが。
「豊饒の海」は「生」と「死」を巡る壮大な物語で何度も読み直して始めてその深淵の縁に立つことが出来る。三島の優雅な筆致、アルファベットのサインが入った「暁の寺」のページをめくり。

三島 由紀夫
天人五衰