僕が電話をかけている場所 | 青パパの無限増殖ver.187

僕が電話をかけている場所

かつてコミュニケーションは間接的でもなく希薄な反復性も備えていなかった麗しき時代。サイゴンでは滅多なことで電話したり、かかってくることもなく。携帯電話の普及率も低く、小さなコミューンで暮らしていたから。昼過ぎまで寝ている友人の下宿やミニホテル、行きつけのカフェやバー、あたりをつけて電話するかバイクを走らせれば用が足りる。
久々のサイゴンでは毎日定期的に電話を入れなくては夕方以降の予定も明日の約束も取り付けられない。携帯電話を持たない旅人?は滞在中のホテルや馴染みのカフェや郵便局や在住の旧友の電話を借りて、声を繋ぐ。
公衆電話を探して路地奥に入り込み、忘却の霞がかかったベトナム語で渡りをつける。旧友が頻繁にメールのやり取りをしているのと逆戻りする原始的な形。
話している内容は変わりなくただ寂しさの濃淡のみが一人歩きする。それでも文明の毒に侵された身には右手の親指が動いていた方が安心出来て。
鳴らない世界に行きたい!内心と大きな矛盾。

鈴木 貴博
逆転戦略 ウィルコム-「弱み」を「強み」に変える意志の経営