サイドポケットを狙って | 青パパの無限増殖ver.187

サイドポケットを狙って


ロバート バーン, Robert Byrne, 人見 謙剛
ロバート・バーンのビリヤード・トリックショット

デタムからチャン・フン・ダオにぶつかって直ぐ左のカフェ「漆黒の雫」は、バンコクに根を下ろしたSさんにビリヤードを教授された思い出の場所。暇を持て余していた時分、まるで歯が立たないのにハンデをつけて根気よく教えられ、身の丈に合ったパートナーのGとあちこちで台の癖を把握しているうち、キューを握らずにはいられなくなる。
バイクがずらりと列んだその店で知り合った女の子が独立した際には、タンダ近くまでカフェ開店祝いの花を携え遠征したり。その妹たちが働いている「世紀」へ何回も足を運んだり。帰国後の再訪時には、泊まっていたオーナー宅から程近い彼女の部屋を訪れたり。寂寥に満ちたその住み処は冬蛾の暮らしを連想させる。
ひっそり静まり返った店の前をタクシーで通過して、結局、練習の成果を発揮したのは薄暗いバーで傷んだラシャに歪んだキューをつき、酩酊のポケットに落ちた小一時間。剥がれた鍍金と区別がつかないうちに。