青パパの無限増殖ver.187 -6ページ目

「余白は余韻」

先月の18から30までのブログは二年ぶりのサイゴン再訪を、事実の外観に沿って記述したものです。内容より時間の流れを重視したのは、読み直した際、記憶を蘇りやすくするためです。本編より長い脚注を書くために。
読者重視ではないと批判を浴びそうですが。サイゴンの友人達におんぶに抱っこという私らしい?旅の傾向が如実に顕れているのを損なわないように。実際、驚異的に一人の時間がありませんでしたし。
「余白の余韻」ならぬ「余白は余韻」。旅日誌には書けなかった旅に今月もたまにはお付き合い下さい。
小川 洋子
余白の愛

旅路の終わりあるいは蛇足(25日)

台風が近づいている成田空港へ向けて。機体が幾度となく揺れ、つかの間のまどろみにも落ちることなく。退屈な機内放送を見続ける。
着陸時、スリップし後部がぶれ、悲鳴が溢れる機内。テレビ画面には濡れた滑走路。すぐに安定してほっと一息。
殺人的に重い荷物を引きずるように抱え、イミグレ、税関。税関では仕入れであることを説明し、領収書から関税を算出してもらう。何事も素直?さが大事。
早朝の到着ロビーは外の荒れた空模様とは対照的、穏やかそのもの。オーナー宅に電話をいれ、成田エクスプレスで戸塚へ。やっと眠れる…

橋本 治
源氏供養〈上巻〉
橋本 治
源氏供養〈下〉

やがて舞い降りる静寂(24日後半)

SちゃんMちゃんが先にホテルへ戻り、Aちゃんとバッチャン焼を求め、ドンコイ周辺へ。あまたある雑貨屋は女性ばかり、うちの客層とシンクロしている。確かに夜遊びするには物足りない街。
いろいろ回ってやっと気に入ったカップ・ソーサーが見つかり、デ・タムに。Sさんが付き合わない理由がよくわかる。パッキングの傍らでお姉さんに電話。結局、空港で落ち合い、荷物を受け取ることに。
最後の晩餐は三区のヤギ鍋。昨日とほぼ同じメンバーにI君が加わる。三階建ての店はほぼ満席。ヤギの焼肉、鍋の順に食す。ライスペーパーでヤギの乳肉を香草と巻くのがいい。
締めはSカフェ、途中SちゃんとCカフェのオーナーに拿捕され不義理を詫びる。毎回、最後になるのは申し訳ない。
Sカフェの2階でグラスを傾ける、最後の一瞬まで惜しむように。ホテルの前で散開。
ぎりぎりに空港に着いて待たせたお姉さんに平謝り。想定外の重量にげんなり。交渉する気も起こらず全て手荷物に。
最後の最後に迷惑をかけてしまった。猛省…席に着くと間もなくどっと汗が。税関想定問答を頭で繰り返すうち、機体はサイゴンを離陸。
橋本 治
窯変 源氏物語〈14〉

買い物の愉楽は女神のうなじに(24日前半)

サイゴン最終日。まるで実感が湧かず。四年半前離れた時もそうか。またいつか戻ってくると勝手に思い込んでいた。実際、またデ・タムのホテルのベッドにいる訳だけれど。
Nさんから電話があり、チェックアウトして近くのシントー屋へ。段々小綺麗になっていく。
11時に二人が現れ、夕方の段取りを確認し、ベン・タン市場へ。クリントンが来越時訪れたフォー屋で昼食。昨日と同じく欲しいものもなく、レ・タン・トンを歩いてカラベルまで。Sちゃんが目をつけたバッグは買われてしまい。新たな獲物を見つけにドン・コイ、国営百貨店。
久しく改装中だった国営百貨店はコピーCD、時計、電器屋が姿を消し、ブランドショップがフロアを席巻する。隔世の感。上の階でコーヒーを飲んで休憩。
ガイドブックで行きたい順に回ると夕方にはデ・タムになる。マック・ティ・ブーイでハノイに本店があるバッグ専門店を発見し、三人は満足そう。男には買い物の快楽が味わえないようで。ネームカードばかり増えていく。トン・ティップ・タンも同じ。セラドンブルーは清楚な魅力を帯びているにしろ。
かつてのニャット・ナム、ゼンのスーパーでお土産を買う。もう少しましなチョイスは出来ないものか。
橋本 治
窯変 源氏物語〈13〉

既視感ではない現実の波(23日後半)

動物園の前を通り、サマーセット向かいのマッサージに。一同、一時間のコース。肩と腰だけで十分なのだが。最後はずっとマッサージの女の子とおしゃべり。なまじ話せない方がいいかも。
ホテルに戻り、グェン・チャイの台湾料理屋へ。在住時を彷彿させるルート。再び、アルキスト、Sさん。忙しいのによくつきあってくれる。感謝!点心、海老料理、麺類などで腹を満たす。いつ来ても混んで活気がある。
七人乗りタクシーで三度、Sカフェ。自分のお気に入りの店だがこう何度も足を運ぶとは。酒宴の続き、Mさんが合流してまた盛り上がる。
サイゴン疲れのNさん、パークハイアット組のMちゃんAちゃんが先に帰り、昨晩の店先で普通に飲み。
まるで五年前の再現?既視感というのももどかしい。角のカフェは跡形もなく変貌してしまっている以上、感傷にも浸れないにしろ。
倦怠を含んだ夜風に吹かれ、ビールをちびりちびり。明日の夜に日本へ帰るとは思えない。友と再会し言葉を交わし杯を重ねていると、心だけはバスタブのまどろみに還っているような。
世界は見えない糸が適当に絡むくらいに繋がっているのだ。酩酊するより前に意識が覚醒していく不思議な真夜中。
橋本 治
窯変源氏物語〈12〉

久々バスタブのまどろみ(23日前半)

橋本 治
窯変 源氏物語〈11〉
三人は7時からSさんのツアー。3時半に戻るとのことなので10時起床。万博の番組を横目に見つつ、着替えて、再び両替へ。昨日の分はSさんに頼まれ全部ドルに両替してしまったため。デ・タム辺りではさしたる使い途もないのだが。
Sカフェでアルキスト、Nさんと待ち合わせ。Nさんに頼まれてディック「ヴァリス」クンデラ「耐えられない存在の軽さ」を貸す。ダ・ラットでの仙人のような生活に本は欠かせないよう。レ・ロイで購入した日経新聞の束を抱えていた。
三区のインド料理店でランチ。お二方と親しいJさんとボリュームいっぱいのカレー。
日本経済!について少し真面目な話をする。サイゴンに来ると「豊かさ」について考えずにはいられない。同時に「貧困」も。
半分ほど残し、ベトナム語堪能なK君が開いた日本語学校へ。レモン色の看板が眩しい…行き違いで会議が始まり、会えず。Nさんの買い物でベン・タン市場経由付近のカフェ。バイクの少ない通りは落ち着く。
三人の戻る頃合いなのでデ・タム。Sカフェにみんないる。
パークハイアットまでみんなついて行き、部屋まで押しかける。落ち着いたクラシカルな調度。客の姿が人民委員会側のプールにちらほら。これからのホテル。

酒精と共に(22日後半)

早速、アルキストに電話し、二人のお気に入りのSさん、雑貨など手広く商売するI君、ダ・ラットからNさんが来ることを知らされる。日に日に宴の規模が拡大。
シャワーを浴び、両替に行く。細かくやっている割に意外と減らず。立て替えが多いせいか。ホテル近くのカフェでコーヒーを飲み、再訪時よりの疑問を問い掛けるも、頭が働かない。何故ここに三年あまりもいたのか?「源氏供養」読破してから活字も欲しない。
7時、ホテルのロビーで皆さんと再会。他に適切な表現があればいいのだが。再会は再会。
グェン・タイ・ホックの大衆居酒屋で。Mさん、Wさんが加わり、テーブルが料理とタイガービールで埋めつくされる。タイガービールガールの制服にランクあるのを知る。より身体のラインを強調するオレンジとブルーの制服は選ばれた女性のみ。
デ・タムに戻り、ビリヤードを小一時間。飲み過ぎの傾向にある。どのカフェも過剰に音楽を流すのは如何なものか。サービスなんだろうけど。
解散後、Mちゃん、Aちゃんとクーロンへ。メンバーは変わっているものの、創業メンバーの消息など他愛もない話を。
ホテルの部屋でNHK、MTVを見るともなしに眺めている内、眠りに落ちる。久々に手足を伸ばして。
橋本 治
窯変 源氏物語〈10〉横笛・鈴虫・夕霧・御法・幻

再び魔都へ(22日前半)

うなされることもなく?目覚める。昨夕の雨が嘘みたいに澄み切った青。
朝食、二人に合わせてオムレツを。一人だけ柔らかくしてもらい顰蹙を買う。弄られ役を演じる旅だと腹を括っているので平常?心。
チェックアウトし、電話代を確認。カラベルより数倍高いもリゾート価格か。
車でサイゴンへ。途中、丘陵でスコール、水田地帯で一キロほど続く白いアオザイ姿の下校風景に遭遇。バイクではなく自転車、実に牧歌的、裾を摘んで優雅に漕ぐ姿は健全な美しさを鼓舞する。
市内に入って、二人の高校からの友人Aちゃんを迎えに。
ガソリンのメーターを見ると限りなくエンプティーに近づいている。一リットル一万ドン、在住時のほぼ倍!ブッシュもあこぎなことをする。日本円で七十円も物価と照らし合わせたら。
30分ほど待つとニックネーム通りたおやかなAちゃんが現れる。4時近くにパークハイアットで昼食。夕食との落差が心配…従業員の一人がMちゃんを覚えていた。Mちゃん、Aちゃんは明日一泊するとのこと。ギャップを楽しむ旅?
ブイ・ヴィエンでかつて「あいのり」で使われたホテルにチェックイン。奥の部屋だが予想より静かで安心。うなされても迷惑?をかけることもないし。

橋本 治
窯変 源氏物語〈9〉

停電と沈黙、そしてさざ波(21日後半)

リゾート群を抜けると低い屋根の居並ぶ漁村が見えてくる。自然破壊にしか思えない狂騒と掛け離れた。
ビロードのような夕焼けを見つつ、赤い砂丘で現地の少年達とつかの間の交流。車へ乗り込み、帰途へ?一様に周囲が闇に溶ける。
停電…去年のラオスよりなお暗い。狭い道を行き交うバイク、車のライトを頼りに、レストランを探す。ホテル近くの手頃な店に入ろうとした途端、再び停電。ファンティエットまで戻ることに。
無意味に思える料金所を通過。市街は煌々と電気が灯り、別世界。運転手に導かれるまま、車が複数駐車する現地の海鮮料理屋へ。
オープンプレイスの海側の席に腰を落ち着ける。さざ波をBGMに乾杯して、メニューにない海老の大蒜炒め、蟹スープ、お勧めの海鮮鍋を食す。さすがに飲むの自分一人ではピッチが上がらない。ベトナム語のメニューしかない店で食事するのも久しぶり。
最初は遠巻きに見ていた店のウェイトレス達も最後は二人のカメラにきっちり収まっていた。もっとも自分はずっとファインダー越し。
停電から復旧したホテルへ戻り、サイゴンへ電話。ホテルの予約はOK。アルキスト依存症の旅。明日はまた旧友との再会が待っている。友で世界は巡る。
橋本 治
窯変 源氏物語〈8〉

女心は光源氏に学べない。(21日前半)

エアコンなしで快眠を得られる優雅さ。しかしよくこのコンパクトなベッドから落ちないものだ。Sちゃんにうなされていたようだ、と指摘を受ける。いびきや歯軋りよりまし?
見晴らしのいいテラスで朝食。二人はまたオムレツそのた諸々。パンとサラダで満腹。
橋本治「源氏供養」を読破するべく、ビーチパラソルの下に。古典ならまだしも解説書を読んだら本編が読みたくなるって。
Sちゃん、Mちゃんが覗きに来て、日陰で読書する姿に怪訝な視線を投げ掛ける。焼けたくない、という弁明も虚しい。
昼下がりのプールサイドに移ると容赦ない陽射しが。異邦人なら殺人を犯したくなるような。源氏物語は光源氏こそが貴く輝く存在で、太陽の光なぞ不要。みな日がな一日部屋に篭って和歌や楽器をたしなんでいるのだから。
コーヒーを頼んでプールでほてった身体を冷ます。水べりから相変わらず二人のおしゃべりが響いてくる。
夕方から赤い砂丘を見に行くことにし、二人はSPAへ。頼りなく細い糸が垂れるように雨が降り始める。スコールにもにわか雨にもなれない。
小雨がおさまると5時。砂丘を見るにはやや遅いか。沖に佇む曇り空から時折、雷鳴と閃光。車で砂丘へ向かう。
橋本 治
窯変 源氏物語〈7〉