青パパの無限増殖ver.187 -4ページ目

待ち人来たる?

周防 正行
インド待ち
おみくじの御利益か、ブログの効果か、久しぶりにお店へ足を運んで下さる常連の方々と顔を合わせ。やはり「ひそかに行うと吉」。おおっぴらに商いをするのは向いていない?
オーナー、そして戸塚との橋渡しをしてくれたHさん、私と同い年でテコンドーを指導されているFさん、こよなくベトナムを愛する二人のTさん。
お酒を絶ったHさんは徐々に溌剌さを取り戻しつつあるのが目に見えてわかり。東京大神宮で「周りにこれ以上悪いことが起こりませんように」お願いした話をすると、懐かしい微笑がこぼれる。
Fさんとはほぼ一年ぶりでしたが、最近、付添で行かれたベルギー、オランダの話を主に。ブリュッセルにもベトナム料理店があり、中華料理店しか行けなかったことを悔やんでいました。私が差し上げた車谷長吉「金輪際」に収められた短編にブリュッセルが登場し、ユングの共時性を感じたそう。
縁結びは新たな縁が生まれるのみならず、古くからの解けかけた縁をぎゅっと締める意味合いも含んでいる。見えない縁が繋がってひとつところに集まり、言葉を交わす。縁はまた不思議で奇なるもの。
Hさん、今度はゆっくり話をしましょう。韓国やサイゴン、バンコクの。

ひそかに行うと吉

旅行から一ヶ月あまりの時を経て、SちゃんMちゃんと待ち合わせ、東京大神宮へ。秋の気配が道の端から漂うのを眼に留めつつ、なだらかな坂を登ると、左手に漆黒の鳥居が。
隣の喫茶店で催されていた朗読会の様子を横目に、足を踏み入れようとした瞬間。旅行中、Sちゃんが物まねを交えながら話していたYさんとその彼氏が現れ。その人となりを反復して聞いていたせいか、初めて会った気がまるでしない。
大安吉日のその日、神式結婚式が執り行われる様子を眺めた後。縁結びのお願いをする皆さんと別れて、商売繁盛を鳥居の傍に建つ祠で祈願。境内に入って敷石を踏み締める音の響きに驚き。和やかに談笑する結婚式出席者、絵馬や願い文をしたためる妙齢の女性の姿。しばらく列んでもう一度お参りをして「普通」のおみくじを。「縁結び」の神社で場違いな気もしましたが。
大吉でほっと一安心、商売は「ひそかに行うと吉」の言葉を頭に刻む。待ち人は「来ます」、恋愛は「他人の言動に惑わされるな」、何事も焦らず、意思を持って来るべき流れに与するように、と。

山口 輝臣
明治神宮の出現

呪文のような魔法のような

キャッシュレスの時流に逆らわずでも頑なに保守的なうちの店でもカードでお会計出来るようになりました。妻夫木君に纏わり付く呪文?が目印の。昔は田村正和が渋さを発揮していた。 サイゴンで入り浸ったSカフェでもVISAが使えたような。客単価とまるで連動していない。飲み友達のHさんは一言、「怖くて使えない」。雑貨店の手提げ袋を複数抱えた観光客が引きも切らないドン・コイに限らず、街を歩けばカードの表示が出ている店は見受けられるものの、手数料の関係上小額では断られる場合もあるようで。 この前の旅行でカードを見せたのはカラベルにチェックインした時だけ。買い物もせず、手持ちの現金が足りなくなることもなく、まして病気にも盗難にも遭わない旅人とあっては宝の持ち腐れ?持っているだけで「それなり」の安心は得られるにしろ。 最新の機械にまだ慣れない不束者ですが、お財布に入った魔法?のカードでも現金でも喜んでお支払いをお受けします。

疲れたら頭を軽くする

海外で最後に理髪店へ髪を切ったのは、二年前のバンコク。伊勢丹からプラトゥーナーム、鉄道の線路を越えて、傍には高速道路の架橋が幾重も聳える。
交差点ではジャンバー姿のバイクタクシー・ドライバーが沿いの奥に向かう客待ちをしている。架橋下の荒涼とした空間は痩せこけ皮膚病を患った野良犬が闊歩するくらいで、時折真上から轟音が堕ちて来て文明の片隅にいるのを実感する。
舗道から一歩降りてガラスのドアを押すと、タイ語で書かれた料金表とファッション誌から切り抜かれた男性アイドルの写真がくすんだ白い壁を埋め尽くす。年季の入った椅子と対照的に清潔なタオルで首筋を巻かれ、散髪が始まる。
「横は短く、上は少し、イメージとしは笑顔の眩しい好青年?」適当な写真を指差し、簡潔なタイ語で意思を伝える。
数回のバンコク中期滞在時もシャンプーなしで80バーツのこの店で。徒歩5分のマンション住い。沈没者の仮の宿り。
出来映えは…自分で切ったんですか?行きつけのスピリッツの皆さん、ごめんなさい。

アミューズソフトエンタテインメント
髪結いの亭主

サイドポケットを狙って


ロバート バーン, Robert Byrne, 人見 謙剛
ロバート・バーンのビリヤード・トリックショット

デタムからチャン・フン・ダオにぶつかって直ぐ左のカフェ「漆黒の雫」は、バンコクに根を下ろしたSさんにビリヤードを教授された思い出の場所。暇を持て余していた時分、まるで歯が立たないのにハンデをつけて根気よく教えられ、身の丈に合ったパートナーのGとあちこちで台の癖を把握しているうち、キューを握らずにはいられなくなる。
バイクがずらりと列んだその店で知り合った女の子が独立した際には、タンダ近くまでカフェ開店祝いの花を携え遠征したり。その妹たちが働いている「世紀」へ何回も足を運んだり。帰国後の再訪時には、泊まっていたオーナー宅から程近い彼女の部屋を訪れたり。寂寥に満ちたその住み処は冬蛾の暮らしを連想させる。
ひっそり静まり返った店の前をタクシーで通過して、結局、練習の成果を発揮したのは薄暗いバーで傷んだラシャに歪んだキューをつき、酩酊のポケットに落ちた小一時間。剥がれた鍍金と区別がつかないうちに。


理想的な解説とは

かつて映画館へ行くと必ずパンフレット、次回公開される映画のチラシを集める。それは数ある時間の中で「映画館で映画を観る」時間が「TSUTAYAで借りたビデオを見る」時間より、「特別」だと感じていたから。幼なじみのO君も同じことをしていたような。
たまの休みや仕事の合間を縫ってしか映画を観れない現在は後者であれ「特別」な時間に属する。少し寂しい…最近の映画と大学時代印象に残った映画を交互に。映画への愛が薄れつつあるのか。
松尾スズキ監督「
角川エンタテインメント
恋の門 スペシャル・エディション (初回限定版)
」では、監督及び出演者の解説を聴きながら見るモードが。
シーンごとに撮影の進行状況、雰囲気、シナリオ、演出との関係等が語られる。トリュフォーの「アメリカの夜」のように、ファインダーの向こうから新たな視点があるわけではなく、編集されたフィルムに対しての感想戦。淡々とした口調で時折、沈黙、しばしば乾いた笑いが漏れる。
気恥ずかしさを包含した映画への愛?酒井若菜が可愛く見えるのは錯覚?監督愛なのかは謎。
活字の解説だけを頼りにするより、たまにはフィルムの隙間からこぼれる囁きに耳を傾けるのも、愛を取り戻すリハビリ。

lopoの夜

前日から降り続いた雨音に耳を傾けつつ、布団に包まれたまま、けだるい日曜日の午後に流れるスポーツ番組を見るともなく眺める。
秋華賞の予想もしないうちに、あと30分でレースが始まる…日本オープンも最終組の緊迫した様相…エアメサイアかラインクラフトか…片山か伊沢か…
仕事帰りのNさんからの電話で起き上がると4時。週末のイベントがHさんの店で催されているとのこと。雨天遅延ではないのか…お店にもチラシで告知を出していたというのに。
シャワーを浴びておもむろに、柏尾川沿いの白い小箱へ向かう。途中、クーロン繋がりのWさんも見えていてわざわざ電話に出て下さる。5分くらいの図書館辺りを濡れた髪を振り乱し、歩いている最中。
早出してバーベキューやキムチ鍋の準備をしていたというAちゃんその同級生のSちゃんのマシンガントークをBGMに生ビールのグラスを重ね。ネパールの
NHK「アジア古都物語」プロジェクト
NHKスペシャル アジア古都物語 カトマンズ―女神への祈り
について教示を受ける。白い小箱の屋上からは柏尾川の静かな流れが見下ろしながら。のんびりと眺めるのは数年前の花見以来。
雨上がりで星も月も見えない空の下、足元の店からはギターの調べ、ブルースのうねり。

碧の水田を舞う純白の蝶の群れ

久世 光彦
蝶とヒットラー

ムイネーからサイゴンへの帰途。果てしなく広がる肥沃な水田地帯を韓国製の白いセダンは進む。対向車、バイクは見当たらないものの、メーターは60キロを指したまま、安全かつ慎重な運転。
後部座席から響く二人のお喋りが中断し、助手席より前方を見遣る、と。
可憐にたなびく白いアオザイの行列が視界に飛び込んでくる。午前中の授業を終え、下校途中の地元の高校生たち。一糸乱れぬ整然さと風を切る溌剌さ、未完成の美しさを弾き飛ばしながら。
初めてサイゴンを訪れた際、初な旅行者だった私はシクロドライバーに頼んで、「愛人」の舞台になった高校に足を踏み入れたり、清楚な青い制服姿の女子大生を撮影に行ったりしたのでした。あの時の写真、ビデオはいずこ?購入した絵葉書は残らず、友人の許へ。
在住者でも純粋な旅行者ですらない私ですら、無垢を象徴するアオザイの裾をつまみ、健やかさを顕示し、碧の水田の間を駆け抜ける一陣の風に感嘆する。デジカメではなく褪せない記憶に刻みこもうとして、視線を逸らす一瞬も惜しんで。


僕が電話をかけている場所

かつてコミュニケーションは間接的でもなく希薄な反復性も備えていなかった麗しき時代。サイゴンでは滅多なことで電話したり、かかってくることもなく。携帯電話の普及率も低く、小さなコミューンで暮らしていたから。昼過ぎまで寝ている友人の下宿やミニホテル、行きつけのカフェやバー、あたりをつけて電話するかバイクを走らせれば用が足りる。
久々のサイゴンでは毎日定期的に電話を入れなくては夕方以降の予定も明日の約束も取り付けられない。携帯電話を持たない旅人?は滞在中のホテルや馴染みのカフェや郵便局や在住の旧友の電話を借りて、声を繋ぐ。
公衆電話を探して路地奥に入り込み、忘却の霞がかかったベトナム語で渡りをつける。旧友が頻繁にメールのやり取りをしているのと逆戻りする原始的な形。
話している内容は変わりなくただ寂しさの濃淡のみが一人歩きする。それでも文明の毒に侵された身には右手の親指が動いていた方が安心出来て。
鳴らない世界に行きたい!内心と大きな矛盾。

鈴木 貴博
逆転戦略 ウィルコム-「弱み」を「強み」に変える意志の経営

プールサイド小景

ムイネーの初日、イタリア料理店で食事を終え、徒歩でホテルに戻る。街灯の間隔は疎ら、海辺の砂がうっすらと覆う道を照らす光は脆弱。
鮮やかな緑の生い茂るホテルの小路を抜けてコテージへ。正面に位置するプール、マリンブルーの水面が内側のライトで浮かび上がる。
ひっそりと静まり、人影も消え闇に包まれた砂浜からさざ波の囁き。遥か沖の彼方から雷鳴の震え。
水着に着替えた二人を追って、トニックウォーターの滑らかな輝きを帯びたプールに飛び込み。揺れる水面に呼応して飛沫が。マリンブルーのライトに溶けて、頬に撥ねてきて。
二人のお喋りがとぎれとぎれに。一人水をかき、潜り、戯れている、と。

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
レス・ザン・ゼロ

」のワンシーン、ヤクの売人のジェイムス・スペーダーがパーティーの催されているプールサイドに現れ、大学生の主人公に話し掛ける。
似つかわしくないふてぶてしさを纏った彼の吐いた台詞は?
髪に落ちる滴、沈黙を保つ灰色の雲の隙間より、もう一度大きく吠え、震えた瞬間、プールサイドが濡れ、闇に浸食されていく。
エリスの空虚さ…